はじめに
低圧発電所のO&Mがなぜ普及しないかを考えます。一番やってはいけないのは、サービスが売れない原因をユーザーに求めること。「義務化すべき・・・」という人がいます。売れないサービスを法で強制する、そんなことを考えること自体、出直しが必要です。
サービスが売れないのは、費用に比べ価値がないから。サービスを現に提供している方にとっては暴論かも知れませんが、価値を判断するのはユーザーです。事業の「結果」に現れます。何でもそうですが、シンプルに考えれば本質が見えます。ちなみに、高圧以上を中心に、大企業ユーザーの場合は「内部統制」という別の動機があります。
それでは、価値は何でしょうか。とどのつまりは、収益への貢献です。事故が起きれば収益に影響するし、収益がなければ安全対策ができません。よって、安全は収益に従います。
収益にどう貢献するか。FIT制度の下では、特に低圧発電所の場合、一般的に営業や労務管理などが不要です。結局、「入」と「出」を抑えること、これに収斂されます。
以下では、低圧発電所を念頭に、収益への貢献の視点に照らし、O&Mの再定義(「次世代型O&M」と呼んでいます)について記します。
次世代型O&Mの骨子
発電所の収益確保に必要な維持管理について、1つの前提と3つの視点に整理します。
発電事業の維持管理に必要なこと
「まっとうな発電所」を前提として、
- 長期的視点で発電量を維持すること(発電阻害要因を除去すること)
- 外来の事故を適切に※制御し、事故のリスクコストを最小化すること
- 20年間を見通して、発電事業に係る総費用を削減すること
※ハード面の対策で事故をゼロにすることを目指すのではなく、高額の事故原因になり得る危険な状況等へ実際的な対策を行い、その他の事故はリスクファイナンスに委ねます。この組合せにより、事故のリスクコストの最小化を目指す考え方です。「リスクコスト」とは、事前の事故防止・軽減のための費用および万一事故が発生した際の対応・修繕費用、ならびに万一の事故に備えた損害保険等のリスクファイナンス費用の総体をいいます。
「まっとうな発電所」であること、これが全ての出発点です。この下で、次世代型O&Mは、上記の3つの視点に照らして、目的意識をもって体系的にトータルで提供します。保守点検を例にすれば、発電量の状況を踏まえ、発電所のそもそもの造りまで踏み込むのが次世代型です。
「まっとうな発電所」
特に低圧発電所について、「まっとうでないのは、維持管理が悪い、不十分だ・・・」といわれていますが、本当にそれだけでしょうか。「そもそもの造り」の問題も散見されます。契約上、瑕疵担保期間を1年間程度に限定している例が多いと思いますが、「それが過ぎたからもう知らないよ」で良いのでしょうか。今の保守点検は、そうした点に踏み込んで、何か支援をしてくれますか。
発電所の「そもそもの造り」を棚卸しましょう。例えば、
❑ シミュレーションに比べ発電量が著しく少ない
❑ そもそもの立地が不安(洪水浸水リスクや急斜面設置など)
❑ 見るからに脆弱な造り
❑ 周囲への土砂・雨水の流出
❑ 短期間に顕在した多数の不具合個所
❑ 設計/完成図書がない
発電量の維持
一般的な遠隔監視システムは、その時々の相対比較のみで、発電量の長期的な把握のためには、CSVデータをダウンロードして手間をかけて解析する必要があります。O&M事業者の多くは、保守点検時に発電量の長期的な傾向を考慮していません。発電量を把握していないから、保守点検で発電阻害事情を発見しても、自信をもって対策提案ができません。
一般社団法人新エネルギーO&M協議会では、昨年の秋に会員へ無償で、ハンディな発電量解析アプリの提供を開始しました。
このアプリは、クラウドではなくPCアプリですので、自社システムとして使用できます。
次世代型O&Mでは、このアプリにより、O&Mの入口で発電量の長期的傾向を解析し、それを踏まえて検査・点検を行います。そして、O&M期間を通して、定期的な発電量解析による発電量監視(長期的な発電量の下落傾向)と遠隔監視システムのアラート管理(突発的な発電量の変状)によるスマート保安を柱にします。
これまで、データを入手した相当数の発電所を解析しました。この限りでは、当初の想定以上の多数の発電所に発電量の低下が見られます。
左の散布図は、解析した発電所について、過去の一番発電したときの値と今の発電量について、横軸に経過期間、縦軸に下落率をとったものです。年換算で1%以上発電量が下落している発電所が大宗です。年換算2%以上下落している発電所も半数近く見られます。
事故の制御(リスクコストの最小化)
事故を引き起こす恐れがある危険事情(ハザード)について、考え方の骨子を右表のように3つに分類しました。
高額事故を起こす恐れのある、誰がみても危ない、そうした状況は、そもそもの発電所の造りに由来するものが多いと思います。当然に事故防止対策が必要ですが、立地の問題など今更対処しようがない発電所もあるかも知れません。損害保険に委ねるしかないと思料されますが、この先、高額の保険料割増や保険会社に引受けを拒否される可能性も想定されます。
落雷、盗難、風災による分損などの中規模で小頻度の事故は、損害保険に一番なじみます。ただし、これらの中で落雷は、相対的に事故の規模が大きく頻度も高いので、今後の動向が注視されます。
最後の飛び石によるパネル破損や動物の衝突による柵塀の破損のような多頻度の小額事故は、本来、保険になじみません。現状は、保険会社が我慢強く引受けをしているので良いのかも知れませんが、日常の修繕予算の中で消化すべきリスクです。
以上見たような事故は、従来のO&Mの保守点検ではほぼ防げません。保守点検は、いわば現に生じている故障・不具合の把握です。発電所の危険事情の評価までは踏み込みません。一方、発電量に影響する故障・不具合であれば、発電量監視で分かります。
発電事業に係る総費用の削減
総費用の削減に必要な観点は、何によりもまずO&Mそのものの見直です。次世代型O&Mでは、発電量監視とアラート管理によるスマート保安およびアラート管理による駆付け確認を日常の維持管理の基本業務とします。この基本業務は、従来のO&Mの毎年の保守点検とアラート管理・駆付け業務に代わるものです。費用を積み上げて計算すると、マーケットの一般的な価格水準対比で、半分以下の価格で提供されてしかるべきです。
右に掲げるのは、先行して次世代型O&Mを商品化した会員の1社の例です。1年間につき、従来価格138千円に対し、57千円程度で提供する由です。
次に、発電所の造りを見直すことで トータルで費用削減の余地がないかの検討も意義があります。例えば、適切な防草シートにより一番費用の掛かる雑草対策のコストの削減ができないかなどです。ここで重要なのは、防草シート自体の品質とそれを敷設する施工の品質です。これらを評価しないまま、品質の良くない防草シートが使われている例も多いのではないでしょうか。それから、法面や地盤、その他の進行性の劣化・不具合は、放っておいて後から大きな出費にならないか、今の造りで保守点検等の作業に支障はないか、等々です。
この先、多くの方が想定していない費用イベントがあります。例えば損害保険料。新設時に、メーカー等の自然災害補償付きで引き渡されている発電所が多いと思いますが、こうした補償は、長くても10年で満期です。11年目からは、一般の火災保険等を付けることになります。保険会社や場所によって保険料が異なりますが、保険金額10,000千円に対して、1年間の保険料が40千円~80千円程度になります。パワコンや遠隔監視システムの寿命交換も必要です。延長保証の多くが「メーカーに責めがある場合」を保証の対象にしているので、寿命が対象になるのか、判然としません。加えて、11年目からは、廃棄費用の天引きも始まります。ここ暫く論議が聞こえてきませんが、発電側基本料金が実施されると、低圧発電所で年間80千円~100千円程度が課せられることになります。
今後生じる費用を想定して、維持管理および総費用の計画を策定していますか。これなしに出合い頭に費用を支出するのは、どんぶり勘定です。
一般社団法人新エネルギーO&M協議会では、次世代型O&Mをサービスに具現化し、会員が発電事業者へ提供できるよう、必要なツール、帳票等一式およびO&Mの実施・管理を支援するシステム「PVトレーサビリティシステム」を整備し、会員へ提供を開始しました。既に、エナジービジョン社が取扱いを開始しています。なお、一般社団法人新エネルギーO&M協議会は、「次世代型O&M」を一般名詞と考えているのですが、同社は「次世代型O&M」をそのまま商品名にしているようです。
☞ 次世代型O&Mの詳細は、一般社団法人新エネルギーO&M協議会のHPを参照ください。
一般社団法人新エネルギーO&M協議会
専務理事 大門 敏男